@phdthesis{oai:mejiro.repo.nii.ac.jp:00001797, author = {元井, 沙織 and MOTOI, Saori}, month = {2021-05-28, 2021-05-28}, note = {2020年度, 本論文では,青年後期と成人初期を対象として,(1)片づけ行動が,どのような要因によって促進されるのかを明らかにすること,(2)片づけ行動には,どのような心理的効果があるのかを明らかにすることの2点を目的とした。 これまでの先行研究から,片づけ行動とは単一の行動を指すのではなく,不要な物の処分や,必要な物を分類することなど,複数の作業を通じて,生活空間を整った状態にすることと考えられる。この処分・分類・整頓の3つの要件を網羅した尺度は,これまで作成されていなかった。そこで,本論文では,(1)と(2)を検討していくにあたり,片づけ行動を捉える尺度を作成した。初版の片づけ行動尺度は,処分・分類・整頓の3つの要件を網羅していたが,文章表現に関する問題(現代の生活環境において一般的言えない表現や複数の内容が含まれる項目がある)と妥当性の検討がされていないという問題があった。そこで,文章表現を修正した改訂版片づけ行動尺度を作成し,信頼性と妥当性の検討を行った(研究2)。Cronbachのαを算出し,十分な値が示されたことから,内的整合性の観点から信頼性が確認された。さらに,片づけに関連する概念である「溜め込み」傾向を測定する尺度Saving Inventory-Revised(SI-R)日本語版(土屋垣内他,2015)と部屋の散らかり状況を評定するClutter Image Rating(CIR)日本語版(土屋垣内他,2015)との関連から,収束的妥当性と増分妥当性が確認された。本尺度を用いて,片づけ行動を促す要因と片づけ行動の心理的効果の検討を行った。, (1)片づけ行動を促す要因の検討 本論文では,片づけ行動を促す要因として,子どもの頃の両親の関わり,片づけ動機,実行機能の3つの要因に焦点をあてた。 子どもの頃の両親の関わりは,子どもの頃に父親・母親が規範となるような態度を示していたかという「片づけ態度」,子どもの頃のに父親・母親が片づけを促すような言葉かけをしていたかという「片づけ要求」の2つの側面が,片づけ行動(分類・処分・整頓)に及ぼす影響を検討した。青年後期では,次の結果が示された(研究3)。男性の場合,子どもの頃に父親の直接的な関わりかけである「片づけ要求」が有効な影響力を持っているが,女性の場合,母親自身が片づけの模範となるような「片づけ態度」が有効な影響力を持っていることが示唆された(研究3)。一方,成人初期では,次の結果が示された(研究4)男性・女性ともに,子どもの頃に,母親自身が片づけの模範となるような「片づけ態度」が,現在の「整頓」を促していた。一方で,男女ともに,子どもの頃の母親からの「片づけ要求」から現在の「整頓」に,父親からの「片づけ要求」から現在の「処分」に,それぞれ負の影響が示された。そのことから,「片づけ要求」は,長期的にみると片づけ行動を身につける妨げになる可能性が示唆された。 片づけ動機については,まず,青年後期を対象に探索的に検討した(研究4)。その中で,“片づける理由”では,“誰かが来る・誰かから指摘される”という外的な影響が片づけの理由として意識される割合は低くなり,“心理的な変化のため”という内的な理由を意識する割合が高くなることが示唆された。続いて,片づけ動機が片づけ行動に及ぼす影響を検討した。片づけ動機を捉えるために作成した尺度は,自室の居心地をよくすることに関する動機である「居心地」因子,気持ちを切り替えることに関する動機である「気分転換」因子,不快な感情を回避することに関する動機である「不快回避」因子の3因子から構成された。 青年後期を対象とした検討(研究5)では,「不快回避」よりも「居心地」と「気分転換」のほうが,片づけ行動の「分類」「処分」「整頓」いずれとも関係が強かったことから,「不快な感情を回避したい」というようなネガティブな動機よりも,「居心地をよくしたい」あるいは「気分転換をしたい」というようなポジティブな動機の方が,片づけ行動をより促進するのではないかと推察された。一方で,成人初期を対象とした検討(研究7)では,片づけ動機の「気分転換」よりも「居心地」と「不快回避」の方が,片づけ行動のいずれとも関係が強く示されたことから,生活空間を整え,快適に過ごせるようにするという,片づけ本来の目的が動機として重視されていることが推察された。 実行機能については,行動の長期的な計画に関する能力である「プランニング」,手際の良さや作業処理の効率に関する能力である「効率」,方略の転換や切り替えに関する能力である「切り替え」,課題や作業時の注意の維持や集中に関する能力である「注意の維持」の4つ能力から捉え,片づけ行動に及ぼす影響を検討した。青年後期を対象とした検討(研究5)では,片づけ行動の「分類」と「整頓」は,実行機能の「プランニング」「効率」「切り替え」「注意の維持」のいずれとも関連していたのに対し,「処分」は,「効率」のみと関連していたことから,「分類」と「整頓」を実行する際には,より多くの能力が必要とされているのではないかと推察された。一方で,成人初期を対象とした検討(研究7)では,片づけ行動の「分類」「処分」「整頓」のいずれも,実行機能の「プランニング」「効率」「切り替え」「注意の維持」すべてと関連が認められた。年齢を重ねることにより,物との関わりが増えていく可能性があり,私的な物から仕事に関連した物など多種多様になり,片づけ行動も複雑になるだろう。また,仕事の時間が増えると家の片づけをする時間も少なくなり,限られた時間の中で,計画的かつ効率的に,片づけ行動を実行しなくてはならなくなる。そうした背景から,「分類」「処分」「整頓」いずれにおいても,実行機能が果たす役割が強くなっていくのではないかと推察される。 以上,片づけ行動を促す要因として,子どもの頃の両親の関わり,片づけ動機,実行機能の3つの要因について検討して明らかになったことをまとめると,次のように述べることができる。子どもの頃に両親が片づけを促す言葉かけをすることは,子どもが片づけ行動を身につけるため“きっかけ”であると考えられる。両親が片づけ行動を促す言葉かけをすることで,子どもは片づけ行動をすることになる。しかし,具体的にどのように片づけ行動をすればよいのか,その方法を学ぶ機会がなければ,片づけ行動を身につけることができない。そのため,子どもの頃に大人が片づけの模範となる態度を示し,子どもが片づけ行動を学ぶ機会を設ける必要がある。そして,片づけ行動を経験する中で,“片づけをすると居心地が良くなる”,“気分転換になる”,“不快な感情を回避できる”というような,片づけ行動の利点を実感し,片づけ動機を高めることが大切である。さらに,「プランニング」,「効率」,「切り替え」,「注意の維持」といった実行機能を高めることで,円滑に片づけ行動を実行することができると考えられる。 (2)片づけ行動の心理的効果の検討 本論文では,片づけ行動の心理的効果として,well-beingへの影響を検討した。その際,満足のいく片づけができたという感覚がwell-beingに影響する可能性も考えられたため,片づけ行動からの直接的な影響だけでなく,片づけ満足を介してwell-beingに及ぼす影響も想定して検討を行った。青年後期を対象とした検討(研究5)と成人初期を対象とした検討(研究7)のいずれにおいても,片づけ満足を介さずに,片づけ行動がwell-beingを高めていることが示唆された。このことから,片づけに満足しているかどうかに関わらず,片づけ行動を行っていること,あるいは,その過程でwell-beingが高められているのではないかと考えられる。 各研究で得られた知見から,片づけ行動を促進するためには,片づけ行動の具体的な方法や実行機能を高めるための方法,片づけ動機を高めるために片づけ行動の利点についての情報や学びの機会を提供していくことが有効であると考えられる。さらに,well-beingを高めるための手段として,片づけ行動を活用していく方法を提案していくことも有意義であると考えられる。, 最後に,本論文の意義と今後の課題を述べる。まず,本論文の意義として次のことが挙げられる。これまで片づけに関する研究では,片づけの3つの要素(分類・処分・整頓)の一部を捉えた検討や,片づけができないことに関連した検討が行われてきた。しかし,片づけ全体を捉えるということは,「片づけられない」ことと「片づけられる」こと両方の側面について捉えることが必要である。本論文では,片づけを「要らない物を処分し,要る物を分類,整頓すること」と定義し,「片づけ行動尺度」を作成したことで,個人の片づけ行動の実態をより包括的に捉えることが可能になったと考えられる。心理学的研究として初めて,片づけ行動を捉える尺度を作成し,実証的検討を行うことにより,個人の片づけ行動の特徴を理解する視点を示すことができるという点が本論文の意義の1つである。さらに,片づけ行動を促す要因として,子どもの頃の両親の片づけ要求と片づけ態度,片づけ動機,実行機能の影響を検討した。それにより,多くの人々が関心を持っている「どうすれば,片づけられるのか」あるいは「なぜ,片づけられないのか」という問いに対する知見を提供することができると期待される。また,本論文では,青年後期と成人初期の二つの発達段階における検討を行った。それぞれの研究において,片づけ行動尺度の因子構造に違いが認められなかったことから,片づけ行動は二つの発達段階において共通して捉えることができると示唆された。一方で,青年後期と成人初期との違いも示された。たとえば,片づけ行動に両親が与える影響について,青年後期では男女でモデルの違いが認められ,子どもの頃の同性の親の関わりが重要であることが示された。それに対して,成人初期では男女でモデルの違いは認められず,いずれも子どもの頃に母親が模範となる片づけ態度を示していたことが現在の片づけ行動を促していることが示唆された。片づけ行動からwell-beingに与える影響については,青年後期よりも成人初期の方が高いことが示唆された。これらのことから,発達段階によって片づけ行動を促進する要因および片づけ行動の効果が異なると考えられ,片づけについて発達的視点から検討することの意義を示すことができたと考えられる。 今後の課題としては,次の二点が考えられる。第一は,研究対象者についてである。片づけ行動は生活習慣の一部として考えられ,ライフスタイルやライフステージによっても,片づけ行動自体および各要因との関連の様相が異なる可能性がある。今後は,さらに研究対象を広げて検討していくことが望まれる。第二は,研究法についてである。本論文では,青年後期と成人初期において,異なる結果がみられた。そのため,発達段階によって,片づけ行動を促進する要因および片づけ行動の心理的効果が異なる可能性が示唆された。しかし,本論文の研究では,青年後期と成人初期において,それぞれ別の個人を調査対象とした横断研究であった。そのため,今回みられた差異が,単に調査対象者が異なったことによる個人差に起因する可能性も考えられる。発達段階によって,片づけ行動を促進する要因や片づけ行動の心理的効果が変化するのかどうかを明らかにするためには,同じ個人を対象に各時点のデータを比較することが望まる。今後は,縦断研究による検討を行うことで,発達段階による変化を明らかにできると期待される。}, school = {目白大学}, title = {片づけ行動の心理学的研究 ―青年後期と成人初期を対象とした検討―}, year = {}, yomi = {モトイ, サオリ} }