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総括\n第9章は総合考察として,ER89日本語版尺度を用いて行った実証的検討(研究3,4,5,6)から得られた知見をまとめ,考察した。精神的健康(GHQ)と発達課題を適応の指標とした青年期・成人期の4つの実証研究から共通して検証された知見は,ERが高い人ほど精神的健康が良好であること,ERが高い人ほどコーピング方略やコントロール方略を多く取り入れていること,ERが高い人ほど発達課題の達成がなされていた(あるいは達成していた人ほどERが高かった)こと,ERが発達課題の達成を支援し,発達課題を介しても精神的健康を高めていたことであった。そして,それらの知見から日常生活の中での適応,すなわちストレスを上手く乗り切ることにERがどう関与しているかについて2つの結論が導かれた。ひとつは,ERが自らの持つ力(身体的,知的,情動的,社会的資源)を効果的に活用して認識したストレッサーによるネガティブな影響を緩和し,精神的健康を良好に維持することであり,ERはこの働きによって,日常的ストレスに上手く対処し,ストレス反応から回復するのに寄与しているということである。もうひとつは,ERが青年期・成人期の発達課題の達成を促進することで,発達課題を介して間接的にも精神的健康を高める働きをすることが認められたことから,ERは青年期・成人期の生活において心理社会的に適応していくための重要な予測因子であるということである。本論文中で述べてきたとおり,ERは生涯の発達段階を通して良好な適応状況を実現し,実社会へのポジティブな取組みの素因をつくるとされる。「状況に応じて柔軟に自我を調整し,日常的なストレッサーにうまく対処し適応できる能力」と定義したER は詳述すると,環境の変化や不測の事態への対処能力,その状況で求められることと行動の可能性との‘適合度の分析力’,問題解決方略における豊富なレパートリーの柔軟な発現力である。 本論文の研究から導かれた2つの結論は,これを実証するものにほかならない。とりわけ,ERが発達課題の達成にとって重要な要因であることを明らかにできた点は,これまでの内外の先行研究では指摘されてこなかったことから注目されるべき知見である。\n本論文において,ERについて,その概念と理論的基盤を明らかにし,日本語版尺度を作成して信頼性・妥当性を検証した。そして,この日本語版尺度作成によって,これまで実現されなかった日本人サンプルによる実証的検討を行い,欧米の先行研究と比較可能な知見を得たことの意義は大きい。本論文が本邦におけるERの基礎的研究として位置づけられ,ERのこれからの研究の礎になること,また,これからのER研究から得られた知見は,複雑で多様化した現代のストレス社会を生き抜くための示唆に富む提言につながっていくものであることを総合考察のまとめとして述べた。\n最後の第10章では,研究全体を振り返り,残された課題として①ERの性差,②適応の指標,③事例研究,④ERを高める要因の4点をあげ,今後の研究への抱負を述べた。", "subitem_description_type": "Abstract"}]}, "item_10006_dissertation_number_12": {"attribute_name": "学位授与番号", "attribute_value_mlt": [{"subitem_dissertationnumber": "甲第10号"}]}, "item_10006_version_type_18": {"attribute_name": "著者版フラグ", "attribute_value_mlt": [{"subitem_version_resource": "http://purl.org/coar/version/c_970fb48d4fbd8a85", "subitem_version_type": "VoR"}]}, "item_access_right": {"attribute_name": "アクセス権", "attribute_value_mlt": [{"subitem_access_right": "open access", "subitem_access_right_uri": 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日常生活の適応の観点から見たエゴ・レジリエンスの実証的研究
https://mejiro.repo.nii.ac.jp/records/1594
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名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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博士論文全文 (4.4 MB)
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博士論文要旨及び審査結果要旨 (257.4 kB)
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||
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公開日 | 2020-03-23 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | 日常生活の適応の観点から見たエゴ・レジリエンスの実証的研究 | |||||
言語 | ||||||
言語 | jpn | |||||
資源タイプ | ||||||
資源タイプ識別子 | http://purl.org/coar/resource_type/c_db06 | |||||
資源タイプ | doctoral thesis | |||||
アクセス権 | ||||||
アクセス権 | open access | |||||
アクセス権URI | http://purl.org/coar/access_right/c_abf2 | |||||
著者 |
畑, 潮
× 畑, 潮× HATA, Ushio |
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抄録 | ||||||
内容記述タイプ | Abstract | |||||
内容記述 | 本論文は,エゴ・レジリエンス(Ego-Resiliency:以下ER)を「状況に応じて柔軟に自我を調整し,日常的なストレッサーにうまく対処し適応できる能力」と定義し,日常生活の中での適応,すなわちストレスを上手く乗り切ることにERがどう関与しているかを検討することを目的とした。 第Ⅰ部 理論的検討(研究1) 第1章では,これまで明確にされてこなかったERの概念とその理論的基盤を詳述した。 第2章では,ERと「エゴ」のつかないレジリエンスとの相違を,研究の変遷をふまえて指摘した。第3章では,ERの測定方法について概観し,Q分類法と自己報告尺度について説明した。第4章では,ERの先行研究をパーソナリティ分類の視点,発達段階の視点から概観した。第5章では,新しいER研究の動向として「ポジティブ情動の拡張-形成理論」をとりあげ,この理論に基づく一連の実証研究からERについての新しい知見を紹介した。最後に,日本でのER研究の現状を述べた。 第Ⅱ部 日本語版尺度作成と信頼性・妥当性の検討(研究2) Block & Kremen(1996)によるERの自己報告尺度であるER89(14項目)の日本語版を作成し,その信頼性と妥当性を検討した(第6章)。作成したER89日本語版尺度は,原尺度と同じ1成分で構成される14項目で,十分な内的整合性と信頼性が検証された。また,佐藤・祐宗(2009)のS-H式レジリエンス検査との相関から併存的妥当性が確認され,中川・大坊(1985)によるGHQ-12との負の相関から構成概念妥当性が確認された。さらに,ER89日本語版尺度を用いて行った本論文中の研究(3~5)における尺度の信頼性係数(α=.78~.88)およびERとGHQ(精神的不全感)の一貫した負の相関による構成概念妥当性によって,本尺度の信頼性・妥当性が安定したものであり,青年期・成人期の対象に適用可能であることが示唆された。 第Ⅲ部 実証的検討(研究3,4,5,6) ERが日常生活の中でストレスを上手く乗り切ること(適応)にどう関わっているのかについて,第Ⅱ部で作成したER89日本語版尺度を用いて行った4つの実証研究の報告である。青年期・成人期の日本人サンプルに対し,適応の指標として精神的健康(GHQ)と発達課題をとりあげて検討した。 第7章では,大学生を対象としたERと自我同一性,精神的健康の関連(研究3-1)の仮説検証を行い,分散分析の結果から①同一性達成地位は他の地位に比べてERが高く,精神的健康度が良好であること,②同一性達成地位は他の地位に比べて職業決定の明確度が高いこと,③職業決定の明確度が高い人は,低い人に比べてERが高いことが明らかとなった。また構造方程式モデルによって,④ERが自我同一性の確立(とりわけ現実の自己投入水準)および精神的健康に対しプラスの影響をもつことが確認された。さらに,自我同一性の基礎として位置づけられる時間的展望との関連(研究3-2)では,⑤時間的展開性が未来志向の人は,過去志向の人よりERが高いこと,⑥時間的関連性で時間的統合がなされている人は,そうでない人よりERが高いことが明らかになった。 同じく大学生を対象としたER,ストレッサー,ソーシャルサポート,コーピングと精神的健康の関連(研究4)では,2要因の分散分析と相関関係から①ERの高い人はERが低い人と同じように問題やストレスに直面し,ネガティブな情動を経験していること,②ERの高い人の方が低い人に比べてより多くのサポートを認知していること,③ERの高い人は低い人に比べ,コーピングの問題解決・ポジティブ調整方略を多く取り入れていることが明らかとなった。また,共分散構造分析による因果モデルによって④ER,ソーシャルサポート,コーピングのポジティブ調整方略は精神的健康に良好な影響を与えること,⑤ERがソーシャルサポートの認知を高め,これを媒介として精神的健康へ良好な影響を与えること,⑥ERは問題解決,ポジティブ調整,情動表出のコーピング方略の採用を促し,問題解決,ポジティブ調整方略を媒介して精神的健康へ良好な影響を与えることが明らかとなった。 第8章では,中年期を対象に,ERが中年期の発達課題に果たす役割(研究5)として,ジェネラティビティの獲得と精神的健康とERの関連(第1研究)と,1次/2次コントロール方略を媒介としたERとジェネラティビティの関連(第2研究)を検討した。それぞれ2要因の分散分析,相関関係,構造方程式モデルならびに年代別の多母集団同時分析を行った。結果として,①ERが高い人ほどジェネラティビティが高くなること,②ERが高い人ほど幸福感は高く,不安・抑うつや活動障害が少なく精神的健康が良好であること,③ERはジェネラティビティ(社会次世代貢献,自己成長・充実感)に対し直接正の影響を及ぼすこと,④ERはジェネラティビティ(社会次世代貢献,自己成長・充実感)を介して間接的に精神的健康,幸福感に影響を及ぼすこと,⑤ERはGHQには負の,幸福感には正の影響を及ぼすこと,⑥ERが高いほど1次/2次コントロールのすべての方略を多く採用すること,⑦ERは,ジェネラティビティの発達(獲得)にあたって直接的間接的にこれを促進する役割を果たすこと,⑧ERは,ジェネラティビティの発達(獲得)を促す2次コントロール方略にも大きく関与すること,⑨ERは年代ごとに選択的に方略に関与し,ジェネラティビティの発達(獲得)に有効な間接的支援をしていること,⑩年代が高くなるほどジェネラティビティの発達(獲得)にERの直接的な影響力が増すことが明らかとなった。 さらに,成人期の就労者を対象としたERと心理的ストレス反応の関連の検討(研究6)では,軽微なストレス負荷をかける実験を行った。ストレス計測の指標として3時点(安静時・ストレス負荷時・自力回復時)の唾液を採取し,唾液中クロモグラニンA濃度の時系列データによる反応パターン(ストレス反応パターン)によって分析を行った。結果として4分類(下上型・上下型・下下型・上上型)されたストレス反応パターンとERとの関連から,①ストレス負荷に比較的速やかな反応を示し,ベースラインへの自力回復を示した反応パターン(下上型・上下型)の実験参加者はERが高く,比較的ストレスに弾力的に対応すること,②ストレスを長期化・慢性化させる可能性のある反応パターン(上上型・下下型)を示した実験参加者はERが低く,ストレスに脆弱であることが示唆され,ERがストレス反応に密接な関連があることが明らかとなった。 第Ⅳ部 総括 第9章は総合考察として,ER89日本語版尺度を用いて行った実証的検討(研究3,4,5,6)から得られた知見をまとめ,考察した。精神的健康(GHQ)と発達課題を適応の指標とした青年期・成人期の4つの実証研究から共通して検証された知見は,ERが高い人ほど精神的健康が良好であること,ERが高い人ほどコーピング方略やコントロール方略を多く取り入れていること,ERが高い人ほど発達課題の達成がなされていた(あるいは達成していた人ほどERが高かった)こと,ERが発達課題の達成を支援し,発達課題を介しても精神的健康を高めていたことであった。そして,それらの知見から日常生活の中での適応,すなわちストレスを上手く乗り切ることにERがどう関与しているかについて2つの結論が導かれた。ひとつは,ERが自らの持つ力(身体的,知的,情動的,社会的資源)を効果的に活用して認識したストレッサーによるネガティブな影響を緩和し,精神的健康を良好に維持することであり,ERはこの働きによって,日常的ストレスに上手く対処し,ストレス反応から回復するのに寄与しているということである。もうひとつは,ERが青年期・成人期の発達課題の達成を促進することで,発達課題を介して間接的にも精神的健康を高める働きをすることが認められたことから,ERは青年期・成人期の生活において心理社会的に適応していくための重要な予測因子であるということである。本論文中で述べてきたとおり,ERは生涯の発達段階を通して良好な適応状況を実現し,実社会へのポジティブな取組みの素因をつくるとされる。「状況に応じて柔軟に自我を調整し,日常的なストレッサーにうまく対処し適応できる能力」と定義したER は詳述すると,環境の変化や不測の事態への対処能力,その状況で求められることと行動の可能性との‘適合度の分析力’,問題解決方略における豊富なレパートリーの柔軟な発現力である。 本論文の研究から導かれた2つの結論は,これを実証するものにほかならない。とりわけ,ERが発達課題の達成にとって重要な要因であることを明らかにできた点は,これまでの内外の先行研究では指摘されてこなかったことから注目されるべき知見である。 本論文において,ERについて,その概念と理論的基盤を明らかにし,日本語版尺度を作成して信頼性・妥当性を検証した。そして,この日本語版尺度作成によって,これまで実現されなかった日本人サンプルによる実証的検討を行い,欧米の先行研究と比較可能な知見を得たことの意義は大きい。本論文が本邦におけるERの基礎的研究として位置づけられ,ERのこれからの研究の礎になること,また,これからのER研究から得られた知見は,複雑で多様化した現代のストレス社会を生き抜くための示唆に富む提言につながっていくものであることを総合考察のまとめとして述べた。 最後の第10章では,研究全体を振り返り,残された課題として①ERの性差,②適応の指標,③事例研究,④ERを高める要因の4点をあげ,今後の研究への抱負を述べた。 |
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学位名 | ||||||
学位名 | 博士(心理学) | |||||
学位授与機関 | ||||||
学位授与機関識別子Scheme | kakenhi | |||||
学位授与機関識別子 | 32414 | |||||
学位授与機関名 | 目白大学 | |||||
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内容記述タイプ | Other | |||||
内容記述 | 2014年度 | |||||
学位授与年月日 | ||||||
学位授与年月日 | 2014-09-26 | |||||
学位授与番号 | ||||||
学位授与番号 | 甲第10号 | |||||
著者版フラグ | ||||||
出版タイプ | VoR | |||||
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